メンバーのWILLを重ね合わせてチームで進む
もともと入社時に「リーダーをやりたい」と考えていたので、「やっときたか!」という思いでした。
リーダーになりたいと思うようになったキッカケは、青年海外協力隊でペルーにいたときの経験が影響しています。協力隊の任期は2年なので、その期間が終われば僕はそこからいなくなる。だから、自分がいなくなってもいいように、現地の人たちに引き継ぎをする必要がある。
コミュニティ全体でみんなができることを身につけて、物事を前に進められる状態をつくらなければ持続していかないんです。
これはビジネスにおいても同じですよね。自分のコピーを育てたとしても、僕がいなくなった瞬間に崩壊すると思うんです。なぜなら、そこにいる人の力ではなくて、強力なリーダーがリーダーシップを発揮して牽引してきただけなので。
だから僕は、個人でお客様に向き合い続けることをするよりも、チームのみんながぞれぞれ大切にしている「WILL」を混ぜ合わせて、やりたいことを叶えられるようにエンパワーメントしたいと思ってきました。
みんなそれぞれ人生を生きていくうえでのWILLがあるので、リーダーとしてそのWILLを重ね合わせられたらいいなと。
そう思ったのは、自分自身がセクシャルマイノリティだからというのもあると思います。小さい頃から自分が周りからどう見えているか、相手が何を思っているか、メタ認知するクセがついているんです。
率直に、難しいですね。
僕の信念として、ユーザベースのパーパスと自分のパーパスには「重なり」があるほうがいいと思っていて。メンバーにもWILLを聞いて、組織の目指す方向と重なる部分があるかを確認する作業をするんですが、なかには自分のWILLがパッと出てこない人もいます。
それって、実はちゃんとWILLを持っているのに言語化できていないだけでもあったりするので、これまでどういう経験をしてきたか、なぜユーザベースにいるのかといった質問を重ね、その人の価値観を探ります。

でも最近、無理に言語化する必要はないのかもしれないと思い始めた部分もありますね。なぜなら、キャリアの積み上げ方には大きく2つあるのではないかなと思っていて。先を見据えてどうステップアップしていくか逆算思考するタイプと、何かしらの動きを積み重ねた結果振り返ってみると道ができている積上げ型のタイプと。どちらも大事なんですよね。
ただ、その言語化ができずに苦しい思いをしている人に対しては、自分のなかで何がどういう位置づけなのかを整理することで、自分のWILLやパーパスを言語化し、「いま」が意味あるものになるように意義づけする力添えをしたいと考えています。
「誰もが生きやすい世界を実現する」
僕の個人パーパスは「自身、他者を尊重でき、誰もが生きやすい世界を実現する」です。まずは自分を尊重すること。自分の大切なものを見つけられたらそれができるはずなので、みんなにも仕事にかかわらず「あなたがどうあると幸せなのか」を見つけてほしいと思っています。
このパーパスの土台となっているのは、エンパシー。「共感力」ですね。
エンパシーはシンパシーと比較されやすいんですが、エンパシーとはシンプルにいうと、「他人の靴を履く」こと。
たとえばホームレスの人を見かけたときに、「かわいそうだな」「寒そうだな」と思うところまでがシンパシー。もう一歩踏み込んで、「なぜそんな境遇になったのか」と考えるのがエンパシーですね。シンパシーよりも踏み込んだ位置で物事を見ている感覚です。
個人パーパスはアップデートをすることが前提ではあるんですが、パーパスを置くことで人生の選択軸になるので、意思決定が楽になります。
これは人それぞれでもあるかなと思っていて。僕の場合リーダーになってから忙しい時期が続いたんですが、いずれこれが”自分の糧”になると思って受け入れていました。これはもちろん、フェーズによっても変わると思います。
それぞれのワークライフバランスがあるので、「仕事を頑張らなければいけない」をみんなに押しつけようとは思わないし、ワークとライフ、どちらかに寄るときがあっていいと思うんです。
ただ、そのロジックだとワークに寄るタイミングでしかリーダーを務められない、となってしまいかねなくて。たとえば、時短勤務の人でもチームリーダーを務められるような状態が望ましいとは考えています。
リーダーは組織のいちロールでしかないと思っているので、誰もがフラットに務められる状態が健全だと思うし、そうなるように僕も考え続けなければならないと思いますね。
価値観や常識に「絶対」はない。相手の意見の背景に耳を傾ける
まず、リーダー就任初期はかなりカオスでした。組織としても、育休に入る人がいたり、NewJoiner(中途入社メンバー)がいたりと、人数が少ないなかでプレイヤーも兼ねないといけなくて。
2ndラインリーダー(※)がリーダー業務を50%、75%……という感じで徐々に業務を渡してくれたので助かりました。最初からリーダー業務を100%渡されていたら、プレイヤーとのバランスが取れなくなっていたと思います。
ユーザベースは、スピーダ・NewsPicks・Corporateというカンパニーの下に、Domain>Division(2ndライン)>Team(1stライン)という組織構造になっています
リーダーの業務を数値目標の達成と育成の大きく2つにわけるとしたら、数値目標は継続して達成できていましたが、育成に関しては業務の標準化や権限委譲は難しいと感じていました。

人間ってどうしてもフィルターをかけて物事を見てしまうと思うので、そのことを認識したうえでコミュニケーションを取るようにしています。自分と異なる意見を言われたときに自分のフィルターで判断するのではなく、「この人のこの意見の背景にはどんな経験があるんだろう」と考えるようにしていますね。先ほど話したエンパシー、「他人の靴を履く」のと同じイメージです。
たとえば、リーダーを務めていた頃、メンバーに対してバリューやコンピテンシーに基づいた行動を期待していたんですが、メンバーから「数字にしか興味ないです」と言われたとします。なぜそう思うのかを聞いてみると、「前職でものすごくハードな数値管理をする上司がいて、その人の顔色ばかり伺っていたので……」という話が出てきて、僕も「なるほど」と納得する。
仕事をしているとどうしても施策ベースで意見が対立することもありますが、僕も完全な正解を持っているわけではないし、メンバーが自分の意見に基づいて行動することでステップアップができていくと思っているので、意見が食い違うのは悪いことではないと思っています。
それに、メンバーの意見をよくよく深掘りしてみると「僕の意見もあなたの意見も、目的は一緒だよね」ということがよくあります。お互いに意見を伝え合うなかで、妥協点が見つけられるんです。
こうしたコミュニケーションの仕方を意識するようになったのは、青年海外協力隊での経験があったからですね。価値観が相対化されたんですよ。これまで自分が日本で経験してきた価値観とは違う。宗教も、文化も、言語も違う。四季もない。月並みですが、日本人の常識は世界の常識ではないということに気づきました。
キャリアに関して相談できる場にしたいと思っています。
リーダーを務めていた頃、最初の半年間はメンバーにはアジェンダは自由で、好きなことを話してもらっていました。でもそうすると、どうしても業務の話にかたよりがちだったんですよね。
それはあまりよくないなと。もう少し中長期で、たとえば組織と自分のパーパスを重ねることに焦点を当てたり、キャリアについて考えたりする場にしてもいいのではないかと思うようになりました。
ユーザベースが成長することで「DEIBに取り組む会社」のベンチマークに
僕がユーザベースに入社を決めた要素のひとつが、DEIBに取り組んでいることでした。前職でもLGBTQ+やジェンダー平等の観点からさまざまな活動をしていたので、こうした取り組みを積極的に進めている職場は自分にとって働きやすいのではないかと感じていました。
印象的だったのは、ユーザベースに面接に来たときに「誰でもトイレ」を見かけたことです。ホームページにも外国籍割合や女性割合を掲載していますが、誰でもトイレを見たとき「口だけの会社じゃないな」と思いました。
しかも入社後、前職でLGBTQ+の取り組みをしていたことを自己紹介で伝えたら、DEIB Committeeの活動を紹介されて。早速Committeeに入って、「Ally(性的マイノリティの人々を理解し、支援する人のこと)」のコミュニティを立ち上げ、それをTHM(Town Hall Meeting/全社会)で発表しました。
もうひとつ、僕が入社したときのオンボーディング期間で佐久間さん(佐久間 衡/元ユーザベースCo-CEO)の個人パーパスを聞いたんですよ。そうしたら、「異能な人が異能なままあれる世界の実現」という言葉が返ってきて。その言葉を聞いたとき「僕のパーパスと重なるな」「この人がCEOを務めているこの会社は信頼できるな」と感じました。

「楽しく働きたい」と思ったときに、「自分はここにいていいんだ」という心理的安全性は絶対に必要だと思うんです。そのためには、いろいろな属性の人がいることを会社のみんなが認識して、そのためにどんな組織にすればいいのか、どんな働き方にしていけばいいのかを考えて変えていくことが大切です。
こうした取り組みを推奨しているユーザベースのような会社が大きくなれば、社会のベンチマークにもなり得ますよね。単に事業成長するというだけではなくて、「社会的意義」をつくることにもつながると思うんです。
DEIBの取り組みは、その属性の当事者によってどう感じるかのレベルがまるで異なります。たとえば自分はゲイなので、トランスジェンダーの人や障がい者、女性がこの会社で本当に働きやすいかどうかはわからない。
これは、「みんな」が互いにそう考えるべきだと思うんです。自分とは属性の違うメンバーが何を思っているか。まずはメンバーや上長など身近な人が何に困っているのか考えられる状態になっていくといいですよね。
私にとってのDEIB
映画全般ですね。映画って、自分が生きていない人生を経験できるじゃないですか。たとえば母子家庭の話とか、人種差別をする側・される側とか、いろいろな人の人生や考え方が「なぜそうなるか」を、フィクションながら知ることができます。それが自分の引き出しになっている気がしますね。
衝撃的だったのは、『もののけ姫』です。『もののけ姫』にはエボシ御前とサンという、対照的なキャラクターが出てきます。エボシ御前はあの時代に女性やハンセン病の患者の雇用を生むために、森を切り開いてたたら場をつくる。森の姫であるサンは森を破壊されることに怒る。この構図はマイノリティ同士の戦いであって、どちらも悪くないんですよね。
ほかに、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)という本も僕にとってのD&Iですね。イギリスの貧富の差が激しい中学校に通う日本人移民の子が、人種差別やセクシャルマイノリティを経験するノンフィクション小説です。
あとは、旅行もDEIBを考えさせてくれるキッカケになります。観光地にいくだけでなく、その土地の文化(食や伝統)や人と触れ合うことで、自分の価値観も相対化され、価値観の枠がどんどん広がっていく感覚があるんです。
こういったことを通して、自分の価値観の枠が広がっていくことで、社会や誰かが決めた枠に自分自身を当てはめず、自分を認め、愛し、自由に生きられるようになってきたと思っています。
ユーザベースのDEIBは、「どんな人でも、私の居場所はここにある」と思える状態だと思うので、自分と異なる価値観に触れながら、想像力を持ち、お互いを尊重できるメンバーで溢れる会社であり続けてほしいなと思います。それがきっと社会にも伝播していくと思うので。

編集後記
まーくん(田中のニックネーム)は入社して早々にDEIB Committee(委員会)の有志メンバーに立候補してくれて、THM(全社会)での発表など、どんどん発信してくれる印象でした。今回のインタビューで、個人のWILLを大切にしていることや、まーくん自身のパーパスを聞くことができ、その発信に対するモチベーションの源泉の一端を知ることができたように思います。
「自分とは属性の違うメンバーが何を思っているか」、ともすれば日々の仕事に忙殺されて、抜けてしまいがちな視点だったので、ハッとさせられました。たくさんの気づきをもらえたインタビュー、ありがとうございました!